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大鎧

甲冑デジタルイラスト

平安時代後期から鎌倉時代には、馬を駆り、正確に矢を射る者が誉ある武士とされ、こうした上級武士が着用したのが大鎧です。

大鎧は、平安時代に花開いた国風文化を背景とした華やかさが特徴で、「小札」(こざね)と呼ばれる手の指大の小さな板を絹の平紐でつないだ構造で、武具としての防御性と通気性、織物のような華麗さを併せ持っていました。

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牛革を中心に部分的に鉄を原材料とし、一枚々に漆が施されいた小札の数は1領に3000枚をこえ、小札をつなぐ絹紐は数100mに及びました。

イラストは、小札がで構成された部分で、兜の両脇の「吹返し」や胴の前面などに大鎧特有の「絵革」が施される以前の状態です。

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鎧を着用して弓を射るとき、弦や弓が小札等に掛かるのを防ぐため、兜の「吹返し」や胴の前に「弦走韋」(つばしりのかわ)と呼ばれる鹿革の絵革が貼られているのも大鎧の特徴です。

 ▼絵革の意匠例

 

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また、弓を射るときに生じる脇の隙間を覆うため、両胸には「栴檀の板」(せんだんのいた)と「鳩尾の板」(きゅうびのいた)が取り付けられました。

なお、腕を守る籠手は弓を引く利き手の右腕には装着されず、左腕のみの「片籠手」でした。

 ▼大鎧の胴の断面と展開イメージ

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馬上で晒される身を守る胴は、前・左・後の各々が平面で成形された一体的な胴に脇板を取り付けて四方を守る四角い箱のような構造でした。

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下半身を守る「草摺」は、騎馬時になじむよう4分割され、ふるった鞭が胴の紐にからまないよう、側面には絵革が張られていました。

 ▼威目の意匠と菱綴

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小札をつなぐ平紐を「威毛」(おどしげ)と言い、小札をつなぐことを「威す」と表現し、全面を覆う威し方法を「毛引威」と呼びますが、この方法による華麗な意匠は国風文化を背景に多様なものが考え出されました。

なお、札の最下段を固定する「菱綴」は赤い漆を施したなめし革が一般的で、これは各々の部材の下から悪霊が忍び込むことを防ぐ咒いの意味だったと言われています。

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鎧には、こうした縁起や祈願の要素が多く見受けられますが、鎧そのものを神社等に奉納して戦勝を祈願する例も多くありました

イラストは、平安時代後期に戦勝を祈願して神社に奉納された大鎧のイメージイラストです。なお、この大鎧に兜の鍬形は装着されていませんが、鍬形が装着されるのは鎌倉時代になってからです。

華麗で重厚な大鎧は「式正の鎧」とも呼ばれ、甲冑が多様化する以後の時代のなかにおいても最も格式の高い鎧と位置づけられました。